Bitter Sweet Valentine


「ねぇキミ、サッカー部に入らない?」
 サッカー部マネージャー市井あおいさんの笑顔に胸を打ち抜かれた高1の春、
 俺は人は一瞬で恋に落ちることがあるのだという事を知りました。

「桂、俺サッカー部入るわ」
「えっ?!何でまた急に」
 あっけにとられている桂を置き去りに彼女についてゆく。
「タケシー!新入部員連れてきたよ!」
 とびきりの笑顔で手を振る彼女。
 俺と同じ名前を呼ぶ彼女と「タケシ」の様子から2人が特別な関係であるのは見るも明らかで――
 つまり、俺の恋、一瞬で終了。

 それにしても相手が悪すぎる。
 桜庭健先輩は人望も厚く、サッカーも超上手い。
 男の俺から見ても文句なしにカッコイイ。
 ありゃ惚れるわな。
 聞けばあおいさんから猛アタックしたそうで。
 とはいえ、一旦火のついてしまった想いはそんな急に消せる訳もなく、未練がましく朝練に通う日々。

「小茅君、練習熱心だよね。朝も早いし」
 それはあなたと2人っきりになりたいからですよ。
 先輩が登校してくるまでの数分間、あおいさんとたわいもない話をするのが毎日の楽しみだ。
「タケシも褒めてるよ」
 桜庭先輩、俺の邪まな気持を知ったらあなたはどう思うんでしょうね。

 雑談に花を咲かせること数分間、バタバタと慌しい足音が聞こえ、あおいさんの表情がぱっと明るくなる。
「タケシおはよー」
「おう」
 幸せタイム終了。
 ここからは試練の時間だ。

「そうそう今日、バレンタインでしょ。はいコレ小茅君に」
「ありがとうございます」
 義理だとわかっていても嬉しい。
「小茅君のだけ特別製なんだよ。開けてみて」
 あおいさんの悪戯っぽい笑みを不審に思いつつラッピングをはずし箱を開けてみると、綺麗に形作られたトリュフの中に同一人物が作ったとは思えない衝撃的な出来の物が数個混じっている。
「これは……」
「俺の手作りだ」
 自慢げに答える桜庭先輩。
「……異星の物体かと思いました」
「コガタケ、筋トレ校庭10周追加な」
 笑顔で肩に手を置かれる。
「食ってみろよ」
「大丈夫よ。毒見はしたから」
 あおいさんの言葉に
「コラ、毒見って言うな」
 目の前でじゃれあう2人。
「いや、なにかあると困るんでうちに帰ってから頂きます」
 それ以上仲のいいとこ見せつけられたら泣きますよ、俺。



 ベッドに寝ころがりながら、いびつな形のチョコレートを眺め見る。
 あのガタイのいい桜庭先輩がゴツい手で作ったんだよな。あおいさんと一緒に。
 2人が楽しそうに作業をしている姿が目に浮かんだ。
「……」
 如何ともし難い感情を振り払うように、そのまま口に放り込む。
「……美味いじゃん」
 甘いチョコレート。
 ほんの少しほろ苦く感じたのは……多分気のせいなんだろうな。

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