プロローグ


 こんな所で逢うなんて……
 考え抜いて出した結論。
 もう気持ちの整理はついているつもりだった。

 それなのに――
 その声を聞いただけで、胸が締め付けられる。
 その姿を目にしただけで、こんなにも心が揺れている。

 俺はやっぱり……
 はっきりと確信する。
 ……でも、もう手遅れだ。
 背を向け、歩き出す。
 確実に広がってゆく二人の距離。
 これでいいんだ。これで――

 ……いいんだよな?

 心の迷いを映すかのように次第にゆっくりになる足取り。
 そして、遂に立ち止まる。

「ダメだ……」
 一番大切な事をまだ伝えていない。

「ちょっとだけ、すぐ戻るから」
 言い捨てると、急いで駆け戻り、必死にその姿を捜す。
 どうしよう、見つからない。
 焦燥する俺の肩に静かに手が置かれる。
「もう時間がないわ。行きましょう」
 力なく頷く。

 仕方がない。
 少し時間はかかってしまうかもしれない。
 でも、どうしても――

 この気持ちだけは、ちゃんと伝えなくちゃいけない。


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