007


 授業終了後、意気揚々あやめのもとに向かう。
「あやめちゃん、帰ろ」
「うん。あっ、ちょっと待って」
「何?忘れ物?」
「ううん。あの…桐生君も一緒に」
「ええっ?!何で?」
「最近、小説が行き詰っちゃって。萌えが足りないの」
 萌えってあんた……。
「お願い」
 あやめのバックに大輪のカブランカが次々と花開いた(ように見えた)。
「……はい。わかりました」


「桐生」
 桐生の動きが止まる。
 無言のままゆっくりと顔をこちらに向ける。 
 返事くらいしろよ……。
 拒絶されている雰囲気をひしひしと感じながらも気を取り直して尋ねる。
「一緒に帰らね?城ヶ崎さんも一緒なんだけど」
「……なんで?」
 もっともな疑問だ。っていうか俺が聞きたい。
「実は俺も同じ疑問を持っている。嫌だったらさっくり断ってくれ」
「嫌じゃないけど……」
 おいっ!断れよ。

 あぁもう変なことになってるじゃないか。
 おかしいだろ。この状況。この空気。
 無言の桐生。上機嫌のあやめ。
「私の事は気にしなくていいから」
 あやめが耳打ちする。
 いや、そうじゃなくって!
 この居心地の悪い空気を打破するべく仕方なく桐生に話しかけてみる。
「桐生ってどこの中学出身だっけ?」
「西中」
「あぁそれじゃ侑と同じだ」
「そう」
 会話終了。
 お前は単語で喋る君かよ……。
「そういえば桐生って下の名前なんていうんだっけ」
「聡紀」
 終了。
「と……」
 おっ、続くのか?
「父さんが聡で母さんが紀子」
 あぁそれで一文字ずつ取って聡紀ね。
 って恐ろしくどうでもいい情報仕入れちまったよ……。
 ダメだ。俺には桐生と楽しく会話を続けることは出来ない。
「あやめちゃん、パス」
 あやめに耳打ちすると俺は一歩後ろに下がる。
 血液型だろうが星座だろうが思う存分聞いてくれ。
 あやめは頷くと笑顔で桐生に話しかける。
「もうすぐテストでしょ。一緒に勉強しない?」
「な……」
 なんて積極的な。
 でもこれは結構嬉しい展開だ。
 桐生が断れば、俺とあやめちゃんは二人っきりで楽しくお勉強。
 黙りこむ桐生。
 コレはさすがに断るよな。
「……いいよ」
「えええっ!?」
「やったぁ。この中で学校に一番近いのは夏目君の家なんだけど、大丈夫?」
「大丈夫だけど……」
「じゃあ、決定ね」
 嬉しそうなあやめの様子に微妙な気分になる。
 でも、もしかしたら、二人っきりになるチャンスとかもあるかもしれないし。
 それに、桐生だって乗り気ではないはず。嫌になって途中で来なくなるかもしれないし。
 そうだそれにこの状況、進展には違いない……よな?


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