009


「おっ、キクが普通の雑誌を読んでる。珍しいな」
 エリア情報誌を眺めているキクに声をかける。
「いつも読んでるのも普通の雑誌だぞ?」
 不審そうな表情を浮かべるキクを見て侑があははっと笑う。
「テストも終わったし、週末映画でも観に行こうかって話してたんだよね。桂も行く?」
「いや、俺は週末はデートに……」
 誘おうかと思ってる。
「そっかぁ。いいなー。あっ、そうだ!キクちょっとそれ見せて」
 侑はキクから受け取った雑誌のページを「どこだったかなー」と言いながらペラペラッとめくってゆく。
「あっ、あった!」
 にっこり微笑み、開いた雑誌をこちらに向ける。
「じゃーんっ。初デートにオススメ。テーマパーク特集!恋の吊り橋効果で2人の仲も急接近♪」
「恋の吊り橋効果?」
 なんだそれ。
「吊り橋効果っていうのは……『吊り橋の上で出逢った男女が吊り橋をわたる時の緊張感によるドキドキを恋愛のトキメキ勘違いしてしまい恋に落ちること。吊り橋と同じような効果で、遊園地にあるジェットコースターやお化け屋敷で緊張感を共有することが2人の恋愛感情を発展させると考えられています』だって」

 ……。
 思えば付き合い始めてから約2週間。依然進展なし。
 それどころか桐生という余計な障壁まで出現している。
 テスト中だけかと思ったのに、終わった後もなぜか当然のように一緒に帰ってるし。
 相変らず絡みにくい桐生との微妙な空気の中、胸をよぎるのは「もしかしてずっとこのまま?」っていう一抹の不安。
 恋愛感情を発展かぁ……

「おいおい侑、恋愛のプロフェッショナル夏目先生はそんな小賢しい手は使わないよ。なっ、桂」
 ニヒルな笑みを浮かべながら言うキク。
「ああ。も……もちろん」
 引き攣った笑みを浮べながら俺は答えた。



「あやめちゃん、今度の週末、遊園地に行かない?」
 帰り道、桐生と別れ2人きりになるやいなや切り出す。
「遊園地?」
 大きな瞳をぱっちりと見開き問い返すあやめ。
「そう。テストも終わったし。あやめちゃん、遊園地嫌い?」
「ううん。行きたい!」
 大きく首を振り目を輝かせる。
 おっ、いい反応だ。
「あっ、もちろん2人でね」
 先手を打つ。桐生(じゃまもの)はいらない。
「2人って夏目君と……」
「勿論あやめちゃんとっ!!」
 決まってるだろう。
「遊園地かぁ。そういうシチュエーションも魅力的よねぇ」
 うっとりした表情を浮べるあやめ。なぜだろう。なんだかものすごーく嫌な予感がする。
「3人でっていうのは絶対ダメだからね」
 これだけは譲れない。っていうかなんでそうなるんだ。この会話自体がおかしい。
「うーん……」
 考え込むあやめ。
「……じゃあ2人ずつ」
「はっ?」
「午前中は私と、午後からは桐生君と」
 ……どんな交代勤務だよソレ。
どうしよう。これは断るべきか?
いや、ここで断ってがっかりさせるより、OKしていい雰囲気のままデートに持ち込んだ方がよくないか?
 なんといっても最重要課題はあやめちゃんとの仲を発展させることだ。このチャンスは逃したくない。
「……わかった」
「やったぁ」
 無邪気に喜ぶ。
「でも、どうするんだ?俺が桐生だけ誘うのってすごく不自然だと思うんだけど」
「それは大丈夫!」
あやめは悪戯っぽく微笑んだ。


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